情報誌 フラメンコ研究所 テレツサ | |
カディス, 2010年 6月 | CIFT |
Nº3, vol 3: pp 4-8 | ISSN: 1989-1628 |
クラッシックバレエ、アン・ドゥオールに関連する損傷
セバスティアン・G. ロレンソ
ムルシア・サン・アントニオ・カトリック大学、運動生理学部
アルフォンソ・バルガス・メシア
フラメンコ研究所 テレツサ
Email: sglozano@pdi.ucam.edu
翻訳
石田 眞貴子
日本大学生物資源科学部
Email: makikoadelfa@hotmail.com
入稿:2010年3月14日 校正:2010年3月20日 承認:2010年3月27日 オンライン出版:2010年4月2日
アン・ドゥオール(ターンアウト/外旋)は脚全体、付け根から足先まで外側に向け開いているクラッシクバレエの基本的なポーズである。脚が180度開いていなければならない。関節の動きや筋肉の柔軟性が十分でないと、大腿骨の頸骨の部分が外に向かって開くようにするために床を過度に踏みしめることになる。この動作は膝蓋骨の不具合、膝蓋骨亜脱臼、脛骨腱炎、膝の過伸展や腰痛などを引き起こす。
しかしながら、ダンサーが正しいテクニックでこのポーズをとったとしても、オーバーワークが原因で、股関節炎、臀部滑液包炎、内転筋の腱炎などが発症することがある。
キーワード: アン・ドゥオール、クラッシックバレエ、痛み、外旋
導入
クラッシクバレエは5世紀に亘るシステマティックな育成方法により確立されたポーズ、動きを学んでいく踊りである。クラッシクバレエ習得法は確立されており、その習得方法については15~16世紀にイタリア語で、17世紀にはフランス語で書かれたテキストが出版されている。クラッシクバレエのテクニックはルネッサンスそしてバッロクの時代に想起された美しさを基準としており、リグナーはそのテクニックを習得する上での基本にある2点を挙げている、すなわち、アカデミーでのテクニックの習得はバレエの芸術性を完璧なものにするものではない。又、テクニックは決してダンスではなく、舞台で踊ることを目的としたひとつの手段にほかならない、と。
現在、クラッシクバレエの習得は他のダンス習得にとっても基本であり、クラッシクバレエ以外のダンスカンパニーでもクラッシクのテクニックの完璧な習得を要求するところがある。ピナ・ボウシェなどのクラッシクバレエのスタイルとは対極の表現をするところでも、高いレベルでのクラッシクバレエのテクニック習得を要求するのである。
クラッシクバレエのトレーニングは女子の場合、だいたい8歳くらいから始め、男子の場合はもう少し遅い。10年くらいのトレーニングの期間中、若いバレエダンサーたちは徐々に練習時間を増やし、その内容も密度の濃いものとなっていく。この期間にしっかりとテクニックを学んでおかないと、関節や筋肉、あるいは骨を傷めることになり、バレリーナとしての生命をも危うくすることもある。トレーニング期間中の脊柱の傷みはテクニックが適切に用いられていないということを表す兆候であり、各自の体型の違いに留意せず、全ての踊り手に共通するであろう理想的な美に到達しなければという強迫観念にかられるあまり、個人の肉体的あるいは精神的な健康の限界を超えたりすることもある。
ここではクラッシクバレエの基本のポーズであるアン・ドゥオールについての分析を行い、オーバーワークの弊害や正しいテクニックで実践されなかった場合の症状について解説する。
まえがき
クラッシクバレエは次の2点で他のダンスとは異なる。すなわち、つま先をつく位置と下肢関節の外旋である。後者に関して言えば、技術的にはアン・ドゥオールとして知られているもので、主に股関節に負担がかかるが、美しく見せるためには不可欠な要素である。英語ではターンアウトと訳されおり、股関節、膝、足首を90度外旋させると定義されている。この股関節の外側に向かう動きはその後、下肢の関節の外側への動きと繋がっていく。
図1.アン・ドゥオール、タンデュ
トワノ・アルボは1588年出版の専門書で、初めて脚の外旋について触れた6。このアン・ドゥオールのポーズは美しさを表現するものであり、さらに身体を動かす際の要求によるものである。両脚の股関節は外側に向け、90度回転されている。この外旋により身体の動きはスムーズになる。
リファールによれば、この脚を外旋させるクラッシクバレエのテクニックはバレエの美しさの基本となっている。それは股関節を外に回すことに始まって、最終的に床に着く脚が180度の角度を保つようにしなければいけない。股関節から脚を外旋させていくテクニックはクラッシクバレエだけでなく、バリやヒンズーなどの踊り、あるいはコンメディア・デッラルテにも見受けられる5,7,8,9。
正しくないアン・ドゥオールのテクニックによりもたらされる損傷
身体の痛み、不快感はクラッシクバレエのダンサー及び、その練習生に多くみられる現象である。多くの要因が連鎖しており、その中には過度の努力、長時間に亘る肉体の酷使、休養の不足そして特に間違ったテクニックを使用するということが挙げられる4,10。十分に外旋が出来ていないことがバレリーナに関節、下肢、骨盤、脊柱に痛み、不快感を感じさせる最大の原因となっている。
下肢
完璧なアン・ドゥオールのポーズはそれぞれの関節を90度外に向けて回転させたものであるが、これは非常に難しく、だいたい70度位の外旋となっている。部位ごとに検証すると、股関節が55~70度、膝関節が5~10度、脛骨、そして中足骨の関節の外旋は10~20度となっている。全体でアン・ドゥオールのポーズを取った時の関節の外側への回転は膝から上が42%で下が48%である11。
アン・ドゥオールのポーズで関節の回転が十分でない場合は、床に足を押しつけることによりテクニックを修正しようとするが、そうすると踵が、前にずれる結果となる。両脚が股関節で180度の角度を作れない時は、バレーシューズを床に押し付けることにより起こる摩擦で修正しようとする、そうすると、股関節に関連した脛骨の外旋が限界を越えたものとなる。これが関連する全ての関節の大きなストレスを引き起こし、数多くの障害の原因となるのである。(図2)16

図 2.アン・ドゥオールのポーズで膝がしらと中足骨2が同じ方向を向いている例 (A)と向いていない例 (B)
大腿骨と膝が一直線上にならず、無理にアン・ドゥオールのポーズをとると、大腿骨が捻転する原因となる。具体的に言えば、膝蓋腱の入る脛骨前部、脛骨結節のずれを誘発する。このことは膝蓋骨の外側へのずれの原因となり、膝蓋骨に過度の負担がかかることになり、膝蓋骨外部の亜脱臼を誘発する。又、ジャンプをしたり、プリエをする時に膝蓋骨前部に痛みや不快感を感じたりするようになる。偏平足の児童はバレエをするといいと言われているが、脚のポジションが真っすぐになっていない場合、負荷を与えすぎることにより脛骨の骨膜炎や腱炎を起こすようになるので、アン・ドゥオールのポーズは正しいテクニックで実践しなければならない15。
限界以上に関節を外旋させることにより生じる弊害は膝の過伸展である。残念ながら、これは、バレエを職業としている男女に数多く見受けられる症状である。(図3)12,14膝の伸展が大きくなると、ハムストリングスや大腿四頭筋が絶え間なく収縮されることになり、その結果、障害が発生したり、柔軟性が欠如したりすることになる。クテダキスとシャープは、軽い膝の過伸展は審美的には魅力的なものであるが、過度の過伸展は膝関節包の後部を傷めたり、関節のコントロールを阻んだりする原因となると指摘している。膝の過伸展は膝蓋骨脱臼、前部の痛み、不安定感、後十字靭帯の損傷を引き起こす15。

図 3.膝の過伸展
骨盤、股関節全般
ここまでは不自然なアン・ドゥオールのポーズが障害の原因になることを示してきたが、この不自然なポーズを長く続けていると様々な痛みや障害を引き起こすことにも言及しなければならない。サマルコは、アン・ドゥオールの長年にわたるトレーニングで関節包が腫れたり、股関節炎、腱炎や内転筋の筋炎を発症すると述べている。
弾発股症候群はよく起こる症状である、これは長いトレーニングの末、バレリーナの4.76%に出現する症状である19。これは大腿骨頭に沿って腸骨大腿靭帯が、あるいは大腿骨大転子の上を大腿筋膜張筋が前後に滑ることによる股関節の変形である。場合によってはこのメカニズムが繰り返されることにより靭帯を取り囲んでいる柔らかい組織に腫れが起こり、深刻なダメージを与えることになる12。ソブリーノとギジェン(1989)は、弾発股(ばね股)はこの関節の主な症状でバレエダンサーの約4.76%がこの損傷を受けていると述べている。
アン・ドゥオールのポーズで引き起こされる別の損傷は臀部にある。その最も重要な原因は股関節を外旋させる時の筋肉の収縮にある。筋肉が収縮しすぎると臀部滑液包炎の原因となる12。
この意味で、マルティネスらはプロのバレエダンサーとの共同研究で、11%のバレエダンサーが弾発股であり、31.3%が内転筋、3.7%が臀部、16.6%がハムストリングス、1.8%が大腰筋、5.5%が大腿直筋と腹直筋に損傷を受けていると推定した。
同様にフェルナンデス・パラッツイら21の研究によると、52.94%が腹直筋を傷めており、11.7%が弾発股であり、5.8%が仙腸関節捻挫(ぎっくり腰)、坐骨神経痛、臀部膿瘍を発症させており、さらに、これぐらいのパーセンテージの踊り手が内転筋、外旋に関連する筋肉、中臀筋に変形が生じているという結果となった。
アン・ドゥオールに関する後遺症として骨関節炎が挙げられる。クラッシックバレエの長期間の練習の後に骨関節炎になる危険性が増加することが指摘されている18,22,23。カルボは現役のクラッシックバレエダンサーの750例のうち13%が股関節の骨関節炎であったと報告している。引退したダンサーに関しても股関節の骨関節炎増加の結果となっている23。
サマルコ18はアン・ドゥオールのポーズにより骨盤が蒙るストレスを強調し、腸関節に骨棘が出現する可能性についても言及している。さらにこのことは症候性変形性関節症を引き起こす可能性もあると述べている。
最後にミチェーリ25は腰の変形の他に股関節のわずかな傾斜はアン・ドゥオールのポーズをとるときの外旋に関連する筋肉の力が足りないのを補っているメカニズムであるが、これは多くの場合股関節屈筋の腱炎を引き起こすと述べている。
脊柱
下肢の損傷と同様に、股関節が十分に外旋しないため、アン・ドゥオールのポーズで脊柱を傷めることがある。運動が受容できる範囲を越えた場合も、腰のまわりや背中の下の部分に損傷をうける危険が大きくなる19,26。
股関節が十分に外旋しないと膝や足首に負担がかかるうえに腰椎前彎をまねき、それは椎間板の変形をもたらし、椎弓部分へのストレスの増加という結果になる12,19,27,28。
バレエダンサーには椎間関節突起部分での骨折は一般的であり、特に腰椎の4番目と5番目に発症し、それは脊柱分離症として知られている。又、前方への滑り出しもよく見受けられる症状で脊柱すべり症という名称で知られている12。
ホウズはバレエダンサーに見受けられる脊柱の前彎を増加させる5つの原因を挙げている。まず第一に、アン・ドゥオールのポーズの時に要求される股関節に関連する無理な脚の外旋で、これが骨盤の前彎の原因となる。第二に、臀部の筋肉、内転筋、ハムストリングス、腹筋が弱いこと。第三に、過度の膝屈伸やO脚。第四に、ハムストリングスの伸長性の欠如、最後に、身体の重心あるいは/そして腕を後ろに置きすぎるという事を挙げている。

図.4 クラッシックバレエでの腰椎前彎を示す正しくないポーズ
結論
正しく用いられたアン・ドゥオールのテクニックは非常に美しいものであるが、股関節、下肢を完全に外旋させた状態を保つため、筋肉の柔軟性と関節の可動性が必要とされる。このポーズは筋肉を酷使するので、臀部の筋肉や内転筋を傷める原因となる。その上、高度のテクニックを必要とするこのポーズはダンサーに脚を過度に外旋させることを強いるので、そのため膝、腰、仙腰の関節に負担を強いることとなる。痛みの多くはこの過度の負担によるのである。
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