フラメンコの踊り手の健康を維持する上で、フラメンコシューズの果たす役割は非常に大きい。


   スポーツの世界において記録を伸ばすためだけでなく、怪我の予防のため選手のはく靴は非常によく研究されている。それにひきかえフラメンコの靴についてはほとんど研究がなされていないのが現状である。


   フラメンコシューズは職人によって作られており、長期間の激しい使用に耐えるため通常牛革や固い素材で作られている。しかしながら最近では使用できる期間が短くなっても、より柔らかく、馴染みやすい素材を用いるケースも増えてきている。もうひとつの特徴は踵とつま先に打ち込まれた釘である。


   フラメンコシューズを選ぶ際の要素は2つある。一つはその形の良さであり、もう一つは怪我を予防できるものであるかということである。この怪我の予防の観点には今までほとんど注意が払われてこなかったし、この分野の研究もなされてこなかったので靴を選ぶ際にどのようなことを心がければいいのかの基準が明らかではなかった。この記事がフラメンコの踊り手や趣味でフラメンコを続けている方々が靴を選ぶ際の参考になれば幸甚である。


   サパテアードは足に多大な負担をかける動作である。そのため足にフィットしていない靴により引き起こされる怪我は数多くある。マメやタコのような皮膚の肥厚化、外反母趾、足底踵骨棘、アキレス腱炎、腓腹筋、ヒラメ筋への過度の負荷などが主なものとして挙げられる。

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   シューズを選ぶ際、まず注目しなければならない点はタコン(踵)である。通常ブナ材で出来ており、高さは3~7センチである。男性のブーツは2~4センチである。女性の場合、最も使用されているタコンの高さは5.5センチで、男性の場合は3.5センチである。運動生理学の立場から推奨できるのはタコンの低い靴である。その理由を下記に示す。

  1. 踵が高いと足が不安定となり、足首にダメージが生じやすくなる。すじを違えたり、靭帯や関節嚢などが微細な損傷を受け、長い年月をかけて機能が低下してくる。


  1. 靴の踵が高すぎると体は前につんのめった状態になり、それを補うために腰はより大きくカーブする。これにより椎間板に過度な圧力がかかり腰痛の原因となる。


  1. 踵が地面から離れている時間が長い程、関節部分での靭帯の関与が少なくなり、足にかかる衝撃を緩める効果が少なくなる。このため腰、背中、頚椎の部分に損傷を受けやすくなる。


   タコンには下の図に示されているように4つの形がある。“クバーノ”と呼ばれているものは主に男性の靴のタコンである。残りは女性用である。”カレーテ“、”セミカレーテ“と呼ばれているタコンの選択はその「見た目」による。しかし、運動生理学の立場から言えばどちらもあまり推奨できない。その形状ではサパテアードによりもたらされた衝撃の加わる面積が狭くなり、インパクトが分散されない。この分散されていない衝撃は骨や関節を伝わり、脊椎に到達することが推測される。椎間板にも大きなストレスがかかる。したがって、一番推奨できるタコンの形は”クバーノ“であり、最近では多くのフラメンコシューズのメーカーがこのタコンを女性用のシューズにも使用している。又このタイプの靴は安定がいいので、しっかりとしたサパテアードが打てるのである。

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高いタコンに慣れている女性はこの低いタコンに慣れるのに時間がかかるかもしれない。

 

 

 

図1.A:セミカレーテ B:カレーテ C:クバーノ DとEはクラシコのタコンの型

 

 

 

  型については常に足をしっかりサポートするものを選ぶべきである。まず、履き心地の良いものを選び、その後に形の良いものを選ぶことをお勧めする。女性の靴に関しては甲の部分にベルトがあることが重要である。そのベルトがゴム製のものもあるが、それよりも皮製のベルトで長さを調節出来るものがよい。そしてそのベルトは擦り傷が出来ないくらいであれば幅が広ければ広いほどよい。男性のブーツであるが、これは女性のものよりも履き心地はいいが、足を思ったほど支えない。ブーツの中には(特にバックスキンで出来ているもの)はすぐに伸びてしまうものがあった。これはロースピードのカメラでの撮影で明らかになったことであるが、ブーツは靴よりも足を支えていなかった。このことはブーツを選ぶ際によく考慮しなければいけないことだろう。

 

   靴の硬さは足、膝の関節、大腿部の健康を考える上で重要な要素となってくる。硬い靴は恐らくより長く使用できるだろう、しかし足に非常な負担をかけることとなり、それは避けねばならない。

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長く使用することが出来なくても、足にあった靴を選ぶべきである。この方法をとれば怪我をする確立を最小限に食い止められる。靴で一番固い部分は靴底である。素材は革かセルロースである。革はどちらかというと伝統的な靴のモデルに使われており、長持ちするが柔軟性に欠ける。靴を長持ちさせたいのなら良質な革の靴底のもので、貼り付けてあるだけでなく手で縫われているものがよい。

   靴の大きさを選ぶのも足の健康を保つためには重要な要素である。いくつものサイズの靴があり、自身の足の大きさを測り作ることも出来る。サパテアードをしているときにあたるようなきつすぎる靴でもいけないし、靴の中で足が浮いているような大きすぎるものでもいけない。ブカブカの靴だと擦過傷ができたり、足首が不安定になったりする。靴の幅も選ぶことが出来る。幅に関しては細身、ノーマル、広め、かなり広めの4種類がある。これで足にぴったりとあう靴を選ぶことが容易となる。


   靴底の前の部分に貼られている滑り止めも選ぶことが出来る。素材はプラスチックである。この滑り止めには2つの役割があり、一つは靴底の縫い目にかかる衝撃を和らげることであり、もう一つは滑り止めである。靴の色により白であったり、黒であったりする。又筋が入っているものと平らのものがある。厚さは0.15から0.4cmのものがあり、もっともよく用いられているのが0.15と0.2cmのものである。


   その他のアドバイスとしては靴の中敷はしっかりととめられていなければならない。そうしないと擦り傷などの原因となる。又靴底に打たれている釘はよく研磨されていなければならない。そうすることにより、床に傷をつけないし、サパテアードの音も濁りのないものとなる。最後に靴を実際にサパテアードなどで酷使する前に、足に馴染ませる期間を持つことをお奨めする。